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掛軸・巻物
 掛軸
 掛物の始まりは支那から伝来した経典や仏画像の表装から始まりました。
現在のような形式になったのは鎌倉時代などに支那から日本に亡命して来た
禅僧の掛物を複製したのが始まりでした。
 そして、題材も信仰対象だけではなく様々な森羅万象の真理を現した
書画や挿絵が世に出て行きました
 その後も時代や建築様式の変化を経て、江戸時代には皆さんが知っている様に
掛軸や額を掛けるようになり、現在まで続いてきました。
 
ここで、ひとつの疑問です。 なぜ、昔の日本人は書画を飾ったのでしょうか? 
私も昔はわかりませんでした。
 ですが、色々な事例を見たり、聞いたりする内に私なりに解釈しました。 
書画とはズバリ真理を探究する哲学です。
 つまり、日本人は一瞬の中に真理を見出していたのです。その過程において己を高めるために教養を身に着けて思慮深く他人の為に命も懸けれる程の義理人情の世の中を作ってきました。ですから、掛軸などをみれば、持ち主の家系や住人の人間としての知性や品格が一目でわかりました。
 こうした文化を持つ日本人の資質を壊すべく、GHQの主導の下、
日本の知識階級が率先して日本の文化は全て悪だと思想教育した結果、
世の中をミスリードして 平気で赤ん坊を殺してしまう思慮の足りない社会になりました。
最も最高学府を卒業しても小学校で習うような四字熟語も知らないような無知で浅慮な人間が
全国民の将来を左右する総理大臣になってしまう時代にまでなったので仕方がないのですが、・・・
 このような時代が近年、更に加速され、皆さんが思っている以上に日本文化の基礎を
支える全国の職人の実態は絶滅状態の「絶滅危惧職業」です 
悲しいことに私達の職種や関連業種においても昔からの原材料や加工する人は
70歳後半のの高齢世代を入れても極わずかになっています。

この様な状態なので、ある材料を使うしかないと云う大変な時代になりました。
 
 そして本題の掛軸の材料ですが使う材料は同じ種類を入れると
最低12種類も必要になります。
 表装裂(ひょうそうぎれ)と呼ぶ表具専門の絹糸を使った西陣織や織物。
 {綿や紙布(和紙を使った反物)などもあります。}
一文字という場所に使う金襴の織物。{本物の金を使った織物から
金色に光っている織物まであります。}
 掛軸に使う和紙は、それぞれ特別な漉き方をした三種類の純手漉き和紙で
特に、仕上げに使われる「宇陀紙(うだがみ)」は奈良の吉野地方の特産品で
昔からその地方でしか漉くことが出来ない特殊な和紙になります
 その他の材料になると、巻絹、上下に付ける軸棒と八双 軸先 軸紐
糊(のり)は天然素材の正麩(しょうふ)を水で煮た糊を使います。

 いずれも、現在では貴重な天然素材の材料になってしまっているので、手作業でやる場合
材料だけでも最低一万円以上します。
高い材料になると幅90cm×30センチ程で何万円にもなるので、基本料金はあっても
使う材料によっては上限が無い金額になります。

「そんなに高いの?」と思う方もいますと思いますが、その方達の想像した掛軸は恐らく機械表具の事だとおもいます。
機械表具は、元々、廉価で大量生産できるように高熱でプレスして誰でも簡単に出来る様に作っているからです。
ある一時期では掛軸一幅、二千円以下にまでなったそうです。
特徴は高熱でプレスするアイロンプリントのように作られるそうです。
料金が安い分、機械表具専門の安い材料になります。
そして、作品の天然素材そのものを痛めます。
作品の仕上がり具合は平坦な印刷の様な仕上がりになるので、
作者の湧いて出てくる肉筆の迫力を感じない作品に仕上がります。
良い点では安価なこと。そして、墨汁など滲むような素材で書かれた作品
に対しては、高熱により墨汁が定着するように思います。
(コピー機の様なイメージです。)
そして、いつでも真っ直ぐに掛かります。
 一方、当店のような伝統技術で全て手作業で天然素材を使い仕上げる手法では
保管状態や自然の気候に左右される上に、現代社会の空調設備によって
扱いが難しく、例え文化財を扱う工房でも同様の状態になります。
一番の特徴としては、天然素材を使ってあるので何十年後かに作品が痛んでも
仕立て直すことで後世の時代に残せることです。

 料金は材料代もあるので、安くはありませんが、普通に仕立てれば何十年と持つことを考えて減価償却してもらえれば、決して高い料金ではないと思っていいただけると
大変、ありがたいです。

 掛軸の様式

 日本では昔から材料に無駄が出ないようにエコロジー規格の共通寸法で
建物が建てられていたので、当然、掛軸や屏風、ふすまや障子なども
建物に合わせた共通規格寸法でした。
同様に、掛軸も基本寸法や様式があります。
 一般的には3種類(仏表具、輪補表装、丸表具)がありますが、
本来は真・行・草と様式別にランク分けされており10種類以上の基本寸法も
定められています。
 が、実際には、そこまでのこだわりは無く、基本は3種類です。
 その中の一つの仏表具といわれる様式の場合は金襴緞子(きんらんどんす)
と言われる金を使った織物を使うので、格式も値段も一番高くなります。
 他は、予算に応じて仕立てることになります。

 丸表具
 
極一般的な表具の仕立て方です。
 汎用性も高く、どのような状況でも使うことができます。
 単純で一番シンプルですが中身が堂々とします。
 注意すべきところは、丈が長いので、
 床の間など掛ける場所の高さを確認することが必要です。
 地方によって、床の間の高さが違うことがあります。
 大抵、本紙より70cm位長くなります
文人表具
 
中国の明朝時代に流行った様式と伝えられている様に
 杜甫や李白などの大陸古来の漢詩や南画と言われる
 学門的なイメージの時に使います。
 特徴として両端に縁(ふち)という別の裂がつきます。
 これも、丈が長いので確認が必要です。
台紙仕立て
 色紙や短冊、扇面など小さいものを掛軸にする為に
 別の紙に嵌め込み大きくするので台紙仕立てと言います。
 台紙は無地が多いですが、洒落た物には金箔砂子など
 装飾した紙を使うこともあります。
 格が高くなるので、風帯付の三段表装になります。
 略式もあります。

  

輪補仕立て
 表具の三体様式の一つですが、
 格式ばったものではなくお洒落なものとして
 一般的には「茶掛け」と言われています。
 お茶席には、これしか掛けては駄目と思い込まれています。
 特徴としては「柱」と呼ばれる縦を細く仕立てます。
 美人画や洒落たものに使います。
 これも風帯付の三段表装になります。
 安く作る略式があります。
三段表装
 表具の三体様式の一つで一文字風帯、中廻し、上下と三段になるので
 三段表装と言われ、本表装とも言います。
 ネクタイにスーツの正装になります。
 略式は無く風帯には金襴を使うので、値段が高くなります。
 刺繍の掛軸の場合は、生地が厚いので使う裂も上等な厚い材料を
 使わなくてはならないので、値段も少し高くなります。
仏表具
 表具の三体様式の一つですが、用途は限られており
 主に仏様の掛軸に使うので「仏表具」とも言います。
 「霊場巡り」や「仏画」など中身に応じて少しずつ様式が変わります 。
 尊いものなので、使う材料も格が高い金襴もしくは銀襴緞子を使わなくては
 ならないので、他の掛軸に比べて材料費が高くなります。
 もちろん使う金襴緞子によって材料費は変わりますが、
 他の材料も格上の良い物を使わなくてはならないので、
 サイズが小さいからと安くなるわけでもありません。

  
 

巻物

巻物といえば基本は経典をさします。掛軸などは、巻物が発展した形です。
巻物の歴史も古く仏教伝来とともに貴重な仏教の教えも入ってきました。
その中には、ありがたいお経などもありました。
当然、日本全国に布教する為には、大量の経典が必要とされ、専門の部署が作られ
生産されました。そして、貴重なお経の巻物を実用性を兼ねた上で
いかに美しく彩色して、年月や害虫からの被害に耐える事ができる巻物を作るか!
となりました。
結局、平安時代にはその技術は完成されて現代まで基本的な技術は変わりません。
ただ、その技術は非常に手間ひまが掛かっており、当時の人達が十分に実用的な
科学知識を実践していたことがわかります。
例えば巻物に使う和紙です。和紙を叩いて紙の繊維を圧縮することで、
紙の密度を上げて丈夫にすると同時に紙の表面の凹凸が無くなり、筆で文字を書く時に
紙に引っかかることなく、滑らかに書くことが出来るようにしました。
また、装飾を兼ねて防虫効果などを持つ染料で何度も紙を染めることで、紙の繊維の奥底にまでに染料が染み込むので、100年や200年くらい余裕で色落ちしません。

そして、紙と木の文化においての最大の弱点は「火」です。
その火から守る為に保存と収納性を考えたのが巻物です。長いお経を隙間無く、巻くことで
酸素を補給して燃焼することと防ぐので、燃え方も外側から燃えます。その為、巻物の
外側は燃えていても、中身は燃えずに残ります。なので、直すことは出来ます。
ただし、燻されて燻製のようになってしまうと紙の繊維が硬化してしまうので、
ダメもとでやってみるしかありません。やり方によっては、恐らく出来るんでしょうが、
非常に難しい作業になると思います。
とまぁ〜現代では古典的な巻物を作る人以前に、膨大な文字数の巻物を書ける人も
いないと思います。それこそ、3分クッキングよろしく、あっ!!と言う間に
印刷される時代です。昔の様に筆を使って楷書で1巻を書き上げるのに現代の人では
毎日書いても一月くらい、かかるかもしれません。それどころか一日やるだけで
集中力や神経が途切れて、二度と書きたくなくなるでしょう。
そんなことを出来る人は、色々なお客様がいましたが、二人しか知りません。
一人はもう亡くなりましたが、葵区で90過ぎまで長生きした凛とした女性です。
もう一人は清水区の歯医者さんをしていた福島先生です。
知ってる方は知っていると思いますが、金泥書といわれる経典を研究して
書くことが出来る男性です。
いずれの方も、物静かで非常に品のある淑女に紳士でしたよ。


巻物

経典
金泥書
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